


親知らずが生えかけて痛むと、「この痛みはいつまで続くの?」と不安になりますよね。放置しても大丈夫なのか、抜いたほうがいいのか悩む方も多いはず。
この記事では、親知らずの痛みの原因や続く期間、悪化を防ぐ対処法を専門医がわかりやすく解説します。痛みを和らげる方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
歯科医師 星野 真(口腔外科専門医・医学博士)
北海道大学歯学部を卒業後、東京女子医科大学病院で研鑽を積み、口腔外科専門医・医学博士を取得。2011年に武蔵野わかば歯科を開院し、幅広い歯科診療に従事。現在も専門知識を活かし、患者の健康を支えている。
生えかけの親知らずは、さまざまな原因で痛みを引き起こします。歯や歯茎を圧迫したり、炎症を起こしたりすることで、ズキズキとした不快な症状が現れることも。親知らずが関係する痛みの主な原因を詳しく解説します。
親知らずが生えてくる際、歯が歯茎を突き破る過程で神経や周辺組織を圧迫します。これにより鋭い痛みや違和感が生じます。
特に顎のスペースが十分でない場合、親知らずが正常に生える余地がなく、圧迫による痛みが強くなりがちです。この圧迫は断続的に起こることが多く、痛みが数日間続いた後、一時的に治まるというパターンを繰り返すことがあります。
スペースの制約から、親知らずが斜めや横向きに生えることがあります。このような「埋伏歯」や「水平埋伏」の状態では、隣接する第二大臼歯(親知らずの一つ手前の歯)を押し、その周辺の歯茎にも圧力をかけます。
これにより痛みだけでなく、歯並びにも影響を及ぼすことがあります。レントゲン検査で親知らずの生え方を確認することが重要です。
親知らずが部分的に生えた状態では、歯と歯茎の間に小さな隙間(歯周ポケット)ができます。この隙間は食べ物のカスや細菌が溜まりやすく、通常の歯ブラシでは清掃が難しい場所です。
結果として「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」と呼ばれる炎症が起こり、痛みや腫れ、場合によっては膿が溜まることもあります。この状態が痛みの主な原因となっています。
親知らずは位置的に清掃が難しいため、虫歯や歯周病になりやすい歯です。生えかけの段階でも虫歯になることがあり、それにより痛みや腫れが生じます。
特に半分だけ生えた状態では、歯ブラシが届きにくく、プラークや食べかすが蓄積しやすいため、炎症のリスクが高まります。定期的な歯科検診で早期発見することが大切です。
親知らずの上に対応する歯がすでに生えている場合、生えかけの親知らずの上の歯茎を噛んでしまうことがあります。これを「頬咬傷(きょうこうしょう)」といい、食事の際に繰り返し傷つけられることで痛みが増します。
また、腫れた歯茎が更に噛みやすくなるという悪循環にも陥りがちです。横向きに生えている親知らずほど、この問題が起こりやすくなります。
親知らずの生えかけによる痛みは、通常3日〜1週間ほど続くことが多いです。
しかし、完全に生えきるまでの過程で、痛みが何度か繰り返し現れることもあります。生え方に問題がなければ、歯が完全に生えそろった時点で痛みは治まることが多いでしょう。
痛みが2週間以上続く場合や、徐々に強くなる場合は、単なる生えるプロセスの痛み以外の問題が考えられます。炎症が広がっている、周囲の歯に悪影響を与えている、埋伏状態で正常に生えられないなどの可能性があります。
また、痛みに加えて発熱や顔の腫れ、口が開けにくいなどの症状がある場合は、より深刻な感染の兆候かもしれません。早めに歯科医院を受診することをおすすめします。
親知らずが正常な向きで、十分なスペースがある状態で生えている場合は、一時的な痛みの後、自然に治まることもあります。
しかし、横向きや斜めに生えている場合、周囲に炎症が起きている場合、あるいは他の歯を圧迫している場合は、自然治癒を期待せず専門的な治療が必要です。痛みの程度や持続期間、随伴症状に注意し、判断に迷ったら歯科医師に相談しましょう。
親知らずが斜めに生えることで、隣の第二大臼歯を押し続けると、その歯の根にダメージを与えたり、歯を傾かせたりする可能性があります。
また、第二大臼歯と親知らずの間に食べ物が詰まりやすくなり、隣の歯が虫歯になるリスクも高まります。このような状態を長期間放置すると、健康な歯まで失うことにもつながりかねません。
親知らずの生え方に問題があると、顎関節に負担がかかることがあります。これにより、口を開けたり閉じたりする際の痛み、顎関節症などの症状が現れることも。
また、親知らず周辺の慢性的な炎症は、口内炎の原因となったり、口臭の原因になったりすることもあります。口腔内全体の健康を保つためにも、親知らずの問題は早めに対処することが重要です。
親知らずの周囲炎が悪化すると、炎症が周囲の組織に広がり、頬や顎、さらには喉の方向にまで及ぶことがあります。重症化すると、顔の片側が大きく腫れたり、高熱が出たりすることも。
特に、「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と呼ばれる深部組織の感染症に進行すると入院治療が必要になることもあり、決して軽視できない問題です。
親知らずが他の歯を押すことで、それまで整っていた前歯の歯並びに変化が生じることがあります。特に過去に矯正治療を受けた方は、親知らずが原因で再び歯並びが乱れてしまうこともあります。
前歯が徐々に重なり始めたり、隙間ができたりする場合は、親知らずの影響を疑い、歯科医師に相談することをおすすめします。
親知らずの周辺が痛む時は、柔らかめの歯ブラシを使い、優しく丁寧に磨くことが大切です。痛みがあるからといって磨かないと、炎症が悪化する恐れがあります。
直接痛みのある部分に触れるのが辛い場合は、歯ブラシの先端部分のみを使って小刻みに動かしたり、歯間ブラシや糸ようじを併用するのも効果的です。清潔に保つことで、炎症の進行を抑えられます。
市販の鎮痛消炎剤(イブプロフェンやロキソプロフェンなど)は、親知らずの痛みを一時的に緩和するのに役立ちます。服用する際は、空腹時を避け、食後に服用するようにしましょう。
また、用法・用量を必ず守り、長期間の連続使用は避けてください。痛みが強い場合は、医師や薬剤師に相談の上、適切な薬を選ぶことが大切です。
親知らず周辺の腫れや痛みが強い場合は、冷却することで症状を和らげることができます。氷水で濡らしたタオルや、保冷剤を清潔なタオルで包み、腫れている部分の外側から当てます。
直接口内に氷を入れるのは避け、外側から冷やすようにしましょう。冷やす時間は15分程度を目安に、1日数回行うと効果的です。ただし、症状が改善しない場合は自己判断せず受診してください。
親知らずの痛みを伴う炎症には、殺菌効果のある含嗽薬(うがい薬)が効果的です。ベンザルコニウム塩化物やポビドンヨードなどの成分が含まれたものを選びましょう。
使用する際は、薬液を適切に希釈し、親知らず周辺に行き渡るよう意識して30秒程度うがいします。食後や歯磨き後に行うと、清潔さを保つのに役立ちます。ただし、長期的な解決策ではないことを理解しておきましょう。
親知らずの痛みがある時は、体の免疫力を高めることも重要です。バランスの良い食事を心がけ、特にビタミンCや亜鉛などの免疫機能をサポートする栄養素を積極的に摂りましょう。
また、十分な睡眠をとることで、体の自然治癒力を高めることができます。痛みによって睡眠が妨げられる場合は、就寝前に鎮痛剤を服用するなどの工夫も検討してみてください。
親知らずの痛みには、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が効果的です。代表的なものにロキソプロフェン(ロキソニンSなど)、イブプロフェン(イブなど)、アセトアミノフェン(カロナールなど)があります。
NSAIDsは炎症を抑える効果があるため、腫れを伴う痛みに適していますが、胃への負担があるため食後の服用がおすすめです。アセトアミノフェンは胃への負担が少ないですが、抗炎症作用は弱めです。
親知らず周辺の炎症には、イソジンガーグル(ポビドンヨード)や、オラドールうがい薬(ベンゼトニウム塩化物)などが効果的です。イソジンは殺菌力が強く、オラドールは比較的刺激が少ないという特徴があります。
使用する際は指示通りに希釈し、1日数回、特に食後のうがいを習慣にすると良いでしょう。口腔内を清潔に保つことで、二次感染のリスクを減らすことができます。
親知らずのケアには、殺菌効果のあるマウスウォッシュが役立ちます。クロルヘキシジンやセチルピリジニウム塩化物などの成分が配合されたものが効果的です。
アルコールフリーのタイプは刺激が少なく、痛みのある時期には適しています。うがいとは異なり、口に含んで数十秒間すすぐことで、より奥の部分までケアできるのが特徴です。ただし、長期使用によって口内環境のバランスが崩れる可能性もあるため、使用期間には注意しましょう。
市販の鎮痛剤は、過剰摂取や長期使用によって胃腸障害や肝機能障害などの副作用を引き起こす可能性があります。また、他の薬との相互作用や、持病のある方は使用できない場合もあるため、必ず説明書を読み、不明点は薬剤師に相談しましょう。
うがい薬やマウスウォッシュも、使いすぎると口内の常在菌のバランスを崩す恐れがあります。いずれの薬も、あくまで一時的な対症療法であり、根本的な解決には歯科医院での適切な治療が必要です。
まず視診と触診で親知らずの状態を確認し、症状についての詳しい問診を行います。その後、レントゲン撮影により、親知らずの位置や向き、周囲の骨や神経との関係を詳細に検査します。
必要に応じて、CTスキャンでより立体的に確認することもあります。これらの情報を基に、抜歯の必要性や難易度、適切な治療法を判断します。診察時には、痛みの程度や期間、発熱の有無なども正確に伝えましょう。
炎症が強い場合、まず抗生物質の投与で感染をコントロールします。また、強い痛みがある場合は、処方箋医薬品の鎮痛剤が処方されることもあります。
これらの薬は市販薬より効果が強いため、症状の緩和が期待できます。処方された薬は、症状が改善しても歯科医師の指示通りの期間、きちんと服用することが重要です。
親知らずの周囲炎では、歯科医院での専門的な洗浄や消毒が効果的です。
歯科医師は特殊な器具を使って、歯と歯茎の間の汚れを丁寧に除去します。また、消毒液で周辺部位を洗浄することで、炎症の原因となる細菌を減らします。
場合によっては、親知らずの上に被さっている歯茎の一部を切除して、清掃しやすい環境を作ることもあります。これらの処置により、痛みや腫れが劇的に改善することが多いです。
親知らずの抜歯は、斜めや横向きに生えている場合、炎症を繰り返す場合、周囲の歯に悪影響を及ぼしている場合などに検討されます。抜歯手術は局所麻酔下で行われ、歯の状態によって難易度や所要時間が変わります。完全に埋まっている場合は、歯茎を切開して骨を一部削り、歯を取り出します。
抜歯後は血餅を保護するため、30分程度は強く噛み締めて圧迫します。術後の腫れや痛みを抑えるために、氷嚢での冷却が指示されることが多いです。
完全に抜歯するほどではないが、周囲炎を繰り返す場合に選択されるのが「歯冠周囲切除術」です。これは、親知らずの上部(歯冠部)のみを削り取り、歯根は残す処置です。
歯茎から出ている部分や、その周囲の骨の一部を削ることで、食べ物が詰まりにくく清掃しやすい形状にします。抜歯に比べて侵襲性が低く、回復も早いのが特徴です。ただし、すべてのケースに適用できるわけではなく、歯の状態によって検討されます。
親知らずの抜歯後の痛みは、通常3〜7日間続きます。手術の翌日から2日目が最も痛みが強く、その後徐々に和らいでいきます。難しい抜歯の場合や、埋伏していた歯を抜いた場合は、痛みが長引くことがあります。
また個人差も大きく、痛みに対する感受性によっても異なります。処方された鎮痛剤を適切に服用することで、痛みをコントロールすることができます。
抜歯後の腫れは、手術後24〜48時間で最大になり、その後3〜5日かけて徐々に引いていきます。腫れと痛みは必ずしも比例せず、腫れが引いてきても痛みが続くことがあります。
また、抜歯の難易度によっては、顔の片側が大きく腫れることもありますが、これは通常の経過です。腫れを最小限に抑えるためには、手術後すぐから氷嚢での冷却を行い、24時間後からは温めるケアに切り替えると効果的です。
抜歯後は、血餅の保護が重要です。「血餅(けっぺい)」とは、親知らずを抜歯したあとの穴(抜歯窩:ばっしか)に自然とできる血のかたまりのことです。これは、傷口をふさぎ、治癒を助けるために非常に重要な役割を果たします。
うがいや吸引(ストローの使用)は血餅を流してしまうため、24時間は避けましょう。また、喫煙や飲酒も血行を促進し治癒を遅らせるため、少なくとも48時間は控えることが推奨されます。
食事は柔らかく冷たいものを選び、抜歯部位には触れないようにします。歯磨きは抜歯部位を避けて行い、処方された抗生物質は指示通りに服用しましょう。これらのケアを適切に行うことで、合併症のリスクを減らすことができます。
親知らずは必ずしも抜く必要はありません。正常な位置に真っ直ぐ生えており、対合歯(上下の噛み合わせの歯)があって機能している場合や、炎症を起こしていない場合は、経過観察でも問題ないことが多いです。
一方、横向きや斜めに生えている場合、周囲炎を繰り返す場合、隣の歯に悪影響を与えている場合などは、抜歯を検討する必要があります。最終的には、レントゲン検査などの結果を踏まえ、歯科医師と相談して判断することが大切です。
親知らずの生え始めの痛みは、ズキズキとした鈍痛や、噛んだ時に増す痛みが特徴です。一方、虫歯の痛みは、冷たいものや甘いものがしみる、特定の歯に痛みが限局する、などの特徴があります。
ただし、親知らず自体が虫歯になることもあり、その場合は両方の特徴が混在します。痛みの質や範囲、誘発要因などから判断しますが、素人判断は難しく、正確な診断には歯科医院での検査が必要です。自己判断せずに、早めに受診することをおすすめします。
親知らずに痛みがなくても、定期的な検診は重要です。親知らずは症状がないまま徐々に隣の歯を傷つけたり、歯並びに影響を与えたりすることがあります。
また、清掃が難しい位置にあるため、自覚症状がなくても虫歯や歯周病が進行していることも少なくありません。半年に一度の定期検診で、レントゲン撮影を含めた親知らずの状態チェックを受けることで、問題を早期に発見し対処することができます。
親知らずの異常な生え方や、生え方に伴う噛み合わせの変化は、顎関節に負担をかけることがあります。特に、親知らずが原因で片側だけで噛むようになると、顎関節に不均衡な力がかかり、顎関節症の原因となることがあります。
顎関節症は、口を開けたり閉じたりする際の痛みや、カクカク音、頭痛などの症状が特徴です。親知らずの痛みと同時に顎関節部の違和感や頭痛がある場合は、その関連性について歯科医師に相談することをおすすめします。
親知らずの生えかけの痛みは、多くの人が経験する一般的な問題です。痛みの原因は様々で、歯の生え方や周囲の炎症状態によって症状の重さや持続期間も変わってきます。
通常、一時的な痛みは1週間程度で落ち着くことが多いですが、痛みが長引いたり、腫れや発熱を伴う場合は早めに歯科医院を受診することが重要です。
自宅でのケアとしては、優しい歯磨き、うがい薬の使用、市販の鎮痛剤の適切な服用などが有効ですが、これらはあくまで一時的な対処法です。根本的な解決には、専門家による適切な診断と治療が必要になります。
親知らずのトラブルを防ぐためには、痛みの有無にかかわらず定期的な歯科検診を受け、早期に問題を発見することが大切です。自分の親知らずの状態を理解し、必要に応じて適切な治療を受けることで、将来的な歯のトラブルを予防しましょう。
歯科医師/口腔外科専門医
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